written in 2012/9/17
事例:CrowdFlower
クラウドソーシングの目的は、“安価なオンライン人材の活用”という視点から語られることが多いが、それでは労働市場に変革が起きていることの本質は見えてこない。
大企業などが、外部の業者に対して、仕事の一部をアウトソーシングすることは、以前から行われてきたが、そうした業者でも、請け負える仕事量には限界がある。しかし、ネットビジネスのような成長スピードの速い分野では、仕事量が前月の2倍、3倍と増えていくため、特定の下請け業者との取引では間に合わない。
そのため、仕事量が何倍に増えても対応できる、アウトソーシングの受け皿として「作業者のクラウド」を作っておく必要がある。たとえば、利用者が急増しているソーシャルメディアの運営会社では、ユーザーから投稿される文章や写真、ビデオなどの内容をチェックして、非合法、公序良俗に反するものは削除する作業を、24時間、365日体制で行わなくてはならない。
しかし、社員やアルバイトを増員していく方法では、日々増えていく投稿数に対応することができない。そこで「CrowdFlower」や「CloudCrowd」のような、クラウドソーシングのプロバイダーが登場してきた。
これらの業者は、数万人規模のオンライン作業者を組織化して、クライアントが依頼する大量のタスク(仕事)に対応できる体制を整えている。具体例として、CrowdFlowerの「Real Time Foto Moderator(RTFM)」というプロジェクトでは、クライアント(SNS運営会社)のサイトに投稿される写真を、数千人のクラウドワーカーが次々と判定していく。
投稿数が増えていくペースに併せて、作業者は増員することができるため、仕事量のキャパシティに限界は無い。しかも、クラウドによる作業は、非常に速いのが特徴で、ユーザーからSNSに写真が投稿されてから、15分以内には写真を判定して、その内容が不正、不快なものであれば削除できることを保証している。
《クラウドによる投稿写真の判定作業》
クラウドソーシングを成功させる要件としては、大量の在宅ワーカーを採用するだけでなく、ワーカーが、オンライン上の作業をできるだけ簡潔に行えるようにする「プラットフォーム化」が欠かせない。写真のスクリーニング作業では、ディスプレイ上に次々と写真が表示されて、ボタンをクリックするだけでスピーディに判定ができるようになっている。
これは、製造業の生産ラインが、熟練工ではないアルバイトの工員でも作業が行えるように、製造工程や設備の工夫がされているのと同じである。さらに、最新のクラウドワークでは、スマートフォンから作業ができるようにしたり、オンラインゲームのプレイ中に作業をすると、ゲームのポイント通貨が稼げる仕組みも考案されている。
(海外ネットビジネス事例一覧へ)
●労働市場から隠れたクラウドワーカーの実像
●クラウドソーシングの受発注ルートについて
●クラウドワークによる労働革命の本質とは
●クラウドによるSNS投稿写真の判定作業
●作業の自動化+スペシャリストによるWebのローカライズ
●検索精度を高めるグーグルのクラウド部隊
●高度テレワーカーの採用・育成・紹介プログラム
●田舎人材採用の利点とテレワーク人材紹介ビジネスの仕組み
●ユーザー参加で需要を先読みするソーシャルプロダクト開発
●クラウドワークとネット副業を普及させるペイパルマネーの実力
JNEWS LETTER 2012.9.17
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