通勤とオフィスを省いたリモートワーク企業の効果と採算性
リモートワークの導入は、企業にとっても様々な利点があるが、直接的なコスト削減効果としては、社員の通勤費とオフィスのスペースを縮小できることが大きい。
日本のサラリーマンの平均通勤時間(往復)は、東京圏で「1時間42分」となっていて、通勤費のほぼ全額を企業が負担している。厚生労働省の調査によると、上場企業に中では、通勤手当の上限を定めていない会社がおよそ6割、上限を定めていても「月額10万円まで」を支給している会社が、半数近くもある。企業が支給している諸手当の中でも、通勤手当の負担は最も重いのだ。
働く社員側には、「通勤費は会社が負担してくれるのだから、住まいは家賃や地価が安い遠方でも構わない」という心理もあり、長距離通勤者が増えている実態もある。しかし、長い通勤時間が体力の消耗やストレスとなって、仕事の能率が落ちることは明らかだ。
そこで、企業が在宅勤務制度を導入することは、「通勤手当の削減」と「労働生産性の向上」という、2つの効果が期待できる。さらに、毎日の通勤社員が減ることで、オフィスのスペースも縮小すれば、家賃の負担も軽減できる。米国のビデオ会議システム会社「PGi」が行ったグローバル・テレワーク調査の中では、フルタイムの在宅勤務者1人につき、企業がコストを節約できる効果は年間1万ドルと試算している。
《企業がリモートワークを導入するメリット》
○社員のストレス解消、モチベーションの向上
○通勤費、オフィス家賃の軽減
○通勤による交通渋滞の軽減
○健康問題や家庭事情(育児や介護)で出社できない有能人材の流出を防ぐ
○障害者の中からも有能な人材を発掘できる
○60歳以上のシニア層からも有能な人材を発掘できる
○部署の垣根を越えたチームやコラボレーションが形成しやすくなる
○職場内にあった派閥や差別を排除して、客観的な人事評価ができる
○台風や地震などの災害時でも業務を継続しやすくなる
【テレワーク時代の新たなオフィスの役割】
やがては、常勤社員よりも在宅社員の割合が高くなる会社も増えてくるだろうが、その時にも、物理的なオフィスがまったく不要になるわけではない。社員同士の信頼関係を深めて、チームワークを強固にしていくには、やはり、顔を合わせたリアルなコミュニケーションが重要になるため、不定期でも出社できる場所はあったほうが良い。
そこで考案されているのが、「オフィス・ホテリング」の仕組みである。各社員が出社したい日時を事前に予約して、デスクや会議用の部屋を使えるようにするものだ。完全予約性のフリーアドレス・オフィスと捉えても良いし、社員限定版のコワーキング・オフィスとみることもできる。
オフィス・ホテリングでは、全社員が一同に集まれるような広いスペースは不要なく、社員数の25%程度が集まれる広さが理想と言われている。在宅社員がオフィスを使う用途は、打ち合わせや会議が主体になっている。
会議室のスケジュール管理ソフトを開発する会社として、1986年に米コロラド州で創業した「EMSソフトウエア」は、ワークスタイルがモバイル化していくトレンドに合わせて主力商品を進化させており、現在は、オフィス・ホテリングの予約機能を提供している。
社員はPCとモバイルの両方から、出社したい日時のオフィス利用状況を確認して、希望の座席を予約することができる。同じチームで仕事をしている同僚との仕事がしやすい位置を、自動で探し出してくれる機能もある。
EMSのシステムでは、毎日の予約状況から最適なオフィス面積を導き出すことも可能で、オフィスを縮小して家賃のコストを抑えつつ、社員が不便にならない均衡点を提示することができる。
【リモートカンパニーの台頭と人生の新たな価値観】
これからの在宅勤務制度は、社員に喜んでもらうための福利厚生ではなく、企業の生き残り策として必要になってくる。若い世代の中では、リモート勤務のワークスタイルに高い関心を抱いており、優秀な人材がリモートカンパニーに集まり始めているためだ。
ブログのプラットフォームで世界一のシェアを獲得している「WordPress」の開発元である、Automattic社では、全社員をリモート勤務で採用している。現在は500名以上の社員が50ヶ国に分散して仕事をしている。
同社の平均年収は 約38,000ドルだが、上級のソフトウエアエンジニアやWeb開発者には80,000ドル以上が支給されている。給与以外の待遇では、歯科を含めた健康保険、自宅やレンタルオフィスで仕事をするためのコワーキング手当、図書購入費の援助、有給の育児休暇制度(父母共)、勤続5年で与えられる2~3ヶ月のサバティカル休暇(有意義な人生体験をするための長期休暇)などがある。
また、普段はリモートワークで仕事をしているため、年1回は社員全員が顔を合わせて交流を深める目的の「グランド・ミートアップ」という合宿が、約1週間の日程で開催されている。開催地は毎年変更されるが、リラックスできるリゾート地が選ばれている。旅費や宿泊費はすべて会社側の負担だ。
■グランド・ミートアップの様子(2015年開催地:ユタ州パークシティ)
Automattic社のようなリモート企業と、満員電車で毎日通勤しているサラリーマンとの間には、ワークスタイルに格段の差がある。もちろん、仕事上の厳しさはあるものの、自由な環境で働ける点では、リモート企業に優秀な人材が集まりやすくなるのは必然の流れといえる。
(この内容はJNEWS会員レポートの一部です。正式会員の登録をすることで詳細レポートにアクセスすることができます → 記事一覧 / JNEWSについて)
■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2016.11.3
※アクセスには正式登録後のID、PASSWORDが必要です。
※JNEWS会員のPASSWORD確認はこちらへ
■この記事に関連したJNEWS会員向けバックナンバー
・ビデオ活用の新ワークスタイルとリモートコーチング
・大都市から地方へと回帰しはじめる米国エリート人材の異変
・休日無制限制を導入するリモート企業のワークスタイル改革
・歩合給で稼ぐコミッションセールスの新たなワークスタイル
・人工知能と共存したリモートワークに求められるスキルの磨き方
※アクセスにはJNEWS会員ID、PASSWORDが必要です。
これは正式会員向けJNEWS LETTER(2016年11月)に掲載された記事の一部です。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料による情報提供をメインの活動としています。 JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。