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ネットビジネスに不可欠なユーザーネットワークにおける数と質の考察

Written in 2000.7.15



 ネットビジネスにおける成功、失敗の評価基準は世界的にも未だ曖昧なままである。売上ベースで評価すればアマゾンコムのように四半期の売上が6億円を超える大型コマースサイトも登場しているものの、収益ベースで考えれば「成功」とは言い難い状況にあるのは周知の通り。

 IPO(株式公開)を果たしたから成功、という図式についても必ずしも正解ではない。最も基本的かつ重要な要素は、いかにしてユーザー(顧客)満足度の高いサイト運営やサービスを提供、維持できるかという部分にある。しかし、この大原則を忘れ、ユーザー側のニーズとはかけ離れた拡大路線を走るネットベンチャー達も少なくないというのが現状だろう。

 そこで、すべてのネットビジネスの核となる「ユーザーネットワークの形成方法」について考えてみたい。ユーザーネットワークとは、一般的なwebサイトであればサイトにアクセスしてくるユーザー層、コマースサイト(オンラインショップ)であれば見込客層や顧客層などが該当する。

<●ユーザーネットワークの種類>

 ・一般的なwebサイト ---------> アクセスしてくるユーザー層
 ・コマースサイト ---------------> 見込み客層、購入客層
 ・情報メディア系サイト ---------> 情報をチェックするユーザー層
 ・メールマガジン ---------------> 購読している読者層
 ・コミュニティサイト -----------> 掲示板、チャット等への参加者層

 ネット上で何らかの情報やサービスを公開、発信しているのであれば、その手段は異なったとしても必ずユーザーネットワークが形成されることになる。これを意識的に組織化したものが「会員ネットワーク」となるわけだ。

 ここで注意しておきたいのは、「ユーザーネットワークとしての価値」は必ずしも「ユーザー数」だけで判断されるわけではないという点。逆に、大規模なネットワークになるほどユーザー層の幅も広がるために運営方針が難しくなる。そこで下記のような公式が考えられる。

  ┌───────────────────────────┐
  │ユーザーネットワークの価値=ユーザー数×ユーザー層の質│
  └───────────────────────────┘

 具体事例としてメールマガジン読者の獲得策で考えてみよう。

オンラインショップやコミュニティサイトがユーザー囲い込みのためにメールマガジンを発行して読者を獲得するのには様々な方法がある。サイトにアクセスしてくれたユーザーに対して読者登録を促すのが一般的な手法だが、これだけでは読者の増加ペースが鈍いために、何らかの無料プレゼントキャンペーンを企画し、プレゼント応募の条件として読者登録させる手法が巷では流行っている。

 確かに、プレゼントキャンペーンとメルマガ読者登録を抱き合わせることによって、読者数は急速に増加させることができるが、「ユーザー層の質」から分析すれば、自らが望んで読者登録をした従来の読者層よりも低下する傾向は否めない。特にEコマースサイト(オンラインショップ)の場合には、「ユーザー層の質の違い」が具体的な注文件数や売上高という数字に反映されるのでわかりやすい。




コマースサイトによるメルマガ読者層と売上構成の考察



 コマースサイトが販促を目的としてメルマガを発行する場合には、読者獲得方法によって売上高の成果にも大きな差が生じる。例えば全読者を、購入意欲の高さによってA、B、Cの3グループに分類し、1回のメルマガ配信における各グループの商品注文率が 2%、0.5%、0.05%であったと仮定して試算してみよう


<オンラインショップ(1)>
※自らが希望するユーザーにのみ新商品紹介用のメルマガを発行
          (メルマガ内で 8,000円の新商品を告知)

 ●読者数 5000人
  ・Aグループ読者(全体の40%)2000人
  ・Bグループ読者(全体の40%)2000人
  ・Cグループ読者(全体の20%)1000人
      │
      ↓
  ◎Aグループの売上高=2000人×(注文率 2  %)×8,000円=320,000円
  ◎Bグループの売上高=2000人×(注文率 0.5 %)×8,000円= 80,000円
  ◎Cグループの売上高=1000人×(注文率 0.05%)×8,000円= 4,000円
  ───────────────────────────────
  ☆読者全体の合計売上高 -------------------------------> 404,000円

<オンラインショップ(2)>
※プレゼント応募者全員に対して新商品紹介用のメルマガを発行
          (メルマガ内で 8,000円の新商品を告知)

 ●読者数 10000人
  ・Aグループ読者(全体の 5%) 500人
  ・Bグループ読者(全体の25%)2500人
  ・Cグループ読者(全体の70%)7000人
      │
      ↓
  ◎Aグループの売上高= 500人×(注文率 2  %)×8,000円= 80,000円
  ◎Bグループの売上高=2500人×(注文率 0.5 %)×8,000円=100,000円
  ◎Cグループの売上高=7000人×(注文率 0.05%)×8,000円= 28,000円
  ────────────────────────────────
  ☆読者全体の合計売上高 -------------------------------> 208,000円

 読者数のみで比較すれば、プレゼント企画によってショップ(2)が(1)よりも2倍のユーザーネットワークを形成しているが、売上成果が高いのはAグループ層が高い比率を占めているショップ(1)であることを理解してもらいたい。




ユーザーネットワークにおける質の管理術



 コマースサイト発行のメールマガジンに限らず、様々なネットビジネスにおいて、ユーザーネットワークの規模拡大を焦るばかりに「質を落としてしまう」ことが少なからずある。そのため、規模を拡大させながらも「質の管理」に注意しなければならない。しかしサイト運営者の多くは「質」に関する管理ノウハウを十分に確立できていない。そこで具体的な管理ノウハウを考えてみよう。

<●メールマガジンにおける質の管理>

 「メールマガジン読者の質」とは、コンテンツ(掲載記事)を熟読している読者層か、ほとんど読まずに捨てているか、という視点から判断することができる。

 有料メールマガジンであれば読者層の把握と管理は明快である。定期的な購読更新の際に、深い読者層であれば次期購読料を支払うことにより継続するし、浅い読者層は更新することなく去っていく。つまり「購読料金の支払い」というフィルターが作用することにより、常にユーザー(読者)ネットワークは一定の質で維持される。ただし、掲載記事に魅力がなくなれば読者数が減少することでネットワークの規模は縮小していく厳しい世界でもある。

 一方、無料メールマガジンの場合には質の管理が難しい。配信登録はしているものの、掲載記事をほとんど読んでいないユーザーの中には登録解除せずに、そのまま放置しているケースが少なくない。つまり、無料メルマガでは「読者数は増えるが読者層は低下する」という傾向が強い。

 そこで無料メルマガ発信者側では定期的に掲載記事に対するレスポンス率を何らかの方法によりチェックしてみることが大切だ。例えば、メルマガ内の掲載記事を理解する上で重要な図式や画像情報をwebサイト上に掲載してリンクさせることにより、そのアクセス数でメルマガの精読率を把握することができる。これを定期的におこなえば、精読率が上昇しているか低下しているかの傾向が掴めるわけだ。

 《リンクによる記事精読率チェックの仕組み》

   ┌───────────────┐
   │ メールマガジンへの記事掲載 │
   └───────────────┘
          │
       リンク│アクセス数をチェック
          ↓
   ┌───────────────┐
   │ 重要な関連情報として    │
   │web上に図式、画像等を掲載 │
   └───────────────┘

 ※メルマガ読者数とwebページのアクセス数の比率
  によって記事精読率を確認することが可能

<●webサイト運営における質の管理>

 メールマガジンは「読者登録」によりユーザーを組織化できるが、一般公開されているwebサイト運営では不特定多数のユーザーが日々アクセスしてくるために、メルマガ以上にユーザーの質を管理することが難しい。

 そのため具体的なABC分析をすることはできないが、「新規ユーザー or 固定ユーザー」の傾向を把握する程度なら可能だ。一般的にみて固定ユーザーが定着しているwebサイトの質は高い水準にあると判断できる。

 各webサイトへのアクセス数には一定した波がある。しかし雑誌やメルマガでサイトが紹介されたり、自らが広告宣伝をすることにより突発的にアクセスが上昇する。平均的なwebサイトであれば、このアクセス増は数日〜数週間経過することで元のアクセス水準へと落ち着くが、質の高いwebサイトではなかなかアクセスが低下しない。つまり、他媒体での記事紹介や広告宣伝によって訪れた新規ユーザーが固定ユーザーとして定着したことを意味している。

<固定ユーザー化によるアクセス推移の違い>

              アクセス  アクセス
               推移A   推移B
     ────────────────────
      2000/6/1 --------> 375     375
      2000/6/2 --------> 410     410
      2000/6/3 --------> 380     380
      2000/6/4 --------> 387     387
      2000/6/5 --------> 405     405
      2000/6/6 --------> 397     397
   ┌→☆2000/6/7 --------> 715     715
   │  2000/6/8 --------> 651     651
   │  2000/6/9 --------> 550     633
   │  2000/6/10 -------> 501     640
   │  2000/6/11 -------> 425     652
   │  2000/6/12 -------> 385     620
   │  2000/6/13 -------> 374     608
   │  2000/6/14 -------> 392     605
   │   ・        ・     ・
   │   ・        ・     ・
   │   ・        ・     ・
   │  2000/6/25 -------> 384     582
   │  2000/6/26 -------> 370     594
   │  2000/6/27 -------> 385     589
   │
  有名メルマガに
  紹介される。

 「アクセス推移A」「アクセス推移B」いずれも他媒体で紹介されることにより当日のアクセス数は跳ね上がるが、重要なのはその後のアクセスの落ち込み傾向にある。Aではメルマガ掲載日から約1週間で元のアクセス水準に戻っているが、Bの場合にはメルマガ掲載によって、その後のアクセス平均値が底上げされたことがわかる。これが「webサイトの質の差」であると理解しておきたい。

 ユーザーネットワークにおける質の管理はネットビジネス全般に共通した重要な課題だが、その具体的な仕組みやノウハウは未だ発展途上段階にある分野である。しかし、単純なユーザー数だけで料金体系が設定される広告収入型ビジネスに限界が見えてきたことからも、今後は総合的な視点から「価値が高い」と判断されるユーザーネットワークが評価される時代へと移行していきそうだ。


※このレポートは2000年7月15日付けにてJNEWS会員向けに発信されたものです。
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