自衛隊に使う防衛費とは違って、地震対策などに使われる防災費の無駄遣いが指摘されることは少ないが、国内では年間に4兆円もの資金が投じられている。この防災市場には一部の業界、業者だけが取引をしている利権の実態がある。 (JNEWSについてトップページ
地震が起こると何屋が儲かる?巨大な防災利権市場

JNEWS
JNEWS会員配信日 2007/10/23

 日本は有数の地震国として知られているが、世界で起きた大地震(M6以上)の2割が日本で発生している。1995年以降は毎年のように深刻な被害をもたらす大地震が日本各地で起こっており、いつか自分が住んでいる地域にも大地震が起こるのではないか、という不安を感じている人も多い。

それが数字となって現れるのが防災用品の売れ行きである。ホームセンターでは日本のどこかで大地震が起こった翌日には、震源地から遠く離れた地域の店舗でも防災用品の売上が5倍近くにまで跳ね上がるという。これは一般の家庭に限らず、国や都道府県の防災関連購入費にも表れていて、阪神大震災の翌年には7兆円もの防災予算が投じられた。現在でも国が防災対策に費やしている金額は年間で約4兆円という規模で、一般会計予算の6%を占める割合。これは世間からの批判が大きい防衛関連の予算とほぼ同じ水準であり、表立っては言われないものの、ビジネスの側面からみると“防災”は隠れた巨大市場なのである。

近頃では地震に限らず、異常気象による台風等の災害で国民の防災意識は高まるばかりだが、そこに企業としてはどのように食い込めばよいのだろうか。そのポイントとして、オーソドックスな防災製品として消火器の業界が手堅く成り立っている仕組みから理解する必要がある。

【競争が少ない消火器業者の販売利権】

 法律では一般住宅に消火器を設置する義務がないが、多くの人が集まる飲食店、商業施設、病院、事業所、アパートやマンションなどには、建物の面積に応じた数の消火器を設置しなくてはいけないことが定められている。そのため健全な消火器業者は法人や団体を主な取引先としていて、店舗や施設内への消火器の販売からメンテナンスを担当している。さらに大きな建物になると消火栓やスプリンクラーなど本格的な消火設備の設置と、1~3年毎の定期点検が法律で義務付けられている。そのため消防設備業という仕事が成り立っていて、そこで消防設備の工事や点検作業に従事する者は「消防設備士」という資格を取得している。

この資格は甲種(特類、1類~5類)、乙種(1類~7類)の13種類に分かれていて、それぞれ工事や点検ができる消火設備の内容が異なっている。消火器の点検だけをやるのなら、乙種第6類(合格率は30~50%)を取得すればよいのだが、大きな事業所や商業施設を担当するには建物内にあるすべての消火設備に適した資格を持っている必要がある。逆にいえば、資格の取得内容に応じて消防設備業者が受注できる仕事の規模が変わってくる。

消火器だけの話にしても、約100世帯が入居するマンションには 80個前後の消火器が設置されている。1本あたりの価格は約5千円だが、それに消火器を収納しておくBOXなどの備品が加わると1本あたり2万円の購入代金になる。そして法定点検が年に1回のペースで行われるが、その点検料が1本あたり約1500円。
さらに消火器の耐用年数は8年のため、それが経過すると新たな消火器に買い換えられる。これを合計すると、消火器の新規設置から点検、買い換えにかかる総費用は 284万円にもなる。8年間で消火器が一度も使われることがないにしても、それが火災を未然に防ぐための「安全コスト」になっている。

《マンション1棟が費やす消火器のコスト(例)》

これは消火器だけにかかる費用だが、実際には他の消火設備の法定点検やメンテナンスを含めた保守契約をビルのオーナーやマンションの管理組合と交わしているのが普通である。そのため消防設備業者は1件の契約で年間数十万~数百万円の保守料を得ることができる。しかも契約は毎年更新されていくため、収益は安定しやすい。そこで大手のビルメーカーでは子会社として消火設備のメンテナンス会社を設立し、親会社が施工したビルやマンションの保守契約が獲得できる仕組みになっている。

業者間の競争原理が働きにくいため、ビルオーナーはかなり割高な保守料を払っているのが実態。それは防災設備業界の事業継承率(子供が親の事業が引き継ぐ割合)が高いことからも伺える。後継者の子供がいないケースでも、毎年の安定収入が見込める契約先のある仕事のため、M&Aによる事業譲渡で買い手が付きやすい。

《防災設備業者の業界構造》

【防災倉庫の物資はどのように調達されているのか?】

地震対策の面でも、国や自治体では各地の避難所に災備蓄庫の整備を進めている。
その中には災害時に近隣住民が数日間は生活できるだけの物資が保管されている。
その中身は食料(乾パン、粉ミルク、おかゆ等が数千食分)、生活用品(紙おむつ、生理用品、毛布等が数百個)、救護用品(リヤカー、テント、簡易トイレ等)、救助用品(発電機、投光機、担架、油圧ジャッキ等)などである。

防災備蓄庫の設置(購入~据え付け工事)には1基あたり2百万円前後のコストがかかるが、自治体では一度に数十基をまとめて購入することになるため、取引額は2千~5千万円と大きい。非常食として代表的な乾パンだけでも一つの県だけで百万食以上の購入需要がある。一食分が2百円とすると、それだけで2億円の取引だ。
生活用品の毛布、肌着、使い捨てトイレにしても数万個の購入規模になる。

それらの物資を納入する業者は、各自治体が入札制度によって公平に決めているという建前はあるものの、防災用として調達しなくてはいけない品目は多岐にわたるために、その地域にある数社の防災会社が順繰りに落札しているような状況。じつはこの防災会社が、消火器の販売と点検を手掛ける業者と重なっている。つまり近年の災害対策市場が急速に大きくなっていることに乗じて、消火器の点検会社が“防災商社”へと成長してきている。

《防災備蓄庫への物資供給ルート》

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・消火器の販路から学ぶ防災ビジネスの進め方と行政との提携
・家庭用消火器の販売ルートと新たな防災機器市場
・行政による消火器斡旋ルートの仕組み
・災害対策を“市場”と捉えた製品開発と認証ビジネス
・防災用物資を扱う防災商社の存在と情報を扱う防災メディア
・民間企業の在庫を活用した防災備蓄の方法
・防災メディアの普及と新たな広告ビジネス

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