特許によって財を成すための急所は「権利を取得すること」よりも、その後に権利を売るための仕組み作りにある。特許権を取得しただけでは誰も権利料を支払ってくれないため、様々な仕掛けによって同業者やライバル社からライセンス料を徴収する方法を築かなくてはならない。 (JNEWSについて
権利の取得より収益化が難しい特許ビジネスの盲点と採算性

JNEWS
JNEWS会員配信日 2004/12/24

「発明をして億万長者になる」という夢は昔からよく描かれるものだ。自分がユニークな発明をして特許を取得することにより、その権利収入によって大金持ちになるのが理想だ。もちろんこの方法で実際に大儲けをした人も過去には多数存在している。また、ベンチャー企業の経営でも独自の技術を開発して特許を取得することで収益化や株式公開を狙うことが一つの成功法則として位置付けられている。

ところが現実には「特許を取得すること」がそのまま収益に結びつくわけではなく、特許出願された案件の大半は価値を生み出すことなく消滅しているのが実態。近頃では、ビジネスの仕組み自体を“ビジネスモデル特許”として権利化しようとする動きもあるが、国内でビジネスモデル特許が大きな収益を稼ぎ出した例というのは、まだ見あたらない。そのため、特許取得のみに大きく依存した事業計画を立ててしまうと、計画通りに収益を生み出すことが難しく、新たな発明が実を結ぶ前に資金が枯渇して経営が破綻してしまうケースもITやバイオ関連のベンチャー企業に多く見受けられる。

これらの背景には、日本の特許制度が抱えている問題点がある他、特許を活用したビジネス戦略がかなり複雑化している状況がある。欧米や中国では自国の知的財産を保護、強化する目的で特許行政に力を入れていることと比較すると、日本はかなりの遅れをとっている。今回はそんな特許ビジネスの最新動向と、発明家や経営者が特許を収益化するためのポイントについて探ってみたい。

【時間と金がかかる特許制度の問題点】

 国内では年間で約41万件もの特許が出願されている。1件当たりの出願に費やされている研究開発費の平均値は約2800万円と言われるが、その中でめでたく審査をクリアーして“特許”として登録されるのは約11万件(登録率約26%)の確率である。しかも特許を出願して登録されるまでには早くても2年以上と長い時間がかかる。技術の進化が早い業界では、数千万円以上の研究費と長い歳月をかけてようやく特許が取得できたとしても、既に“時代遅れ”の技術になってしまっていることもある。

そのため大企業では豊富な研究開発費と人材を武器として、1年間で数百件の特許を出願する。その中の85%以上は特許審査をクリアーせずに拒絶されてしまうものだが、最終的に1件でも2件でも独占的なヒット商品を生み出すことができる特許取得へ繋がれば、トータルでの研究開発は成功という考え方をしている。
しかし創業間もないベンチャー企業が同じ方針をとれば、すぐに資金は枯渇してしまうだろう。

特許を出願してから登録が認められるまでには長い道のりがある。その道程は一般的に「出願」「出願審査請求」「特許料納付」の3段階に大別されている。また事前に、同じ特許が既に出願されているかの先願調査をすることも必要。具体的な特許取得までは以下の流れになる。

《特許取得までの流れ》

特許制度の中で注意しておくべきは「出願しただけでは特許庁に審査してもらえず、出願1件につき約17万円の審査請求料を納付して申し込まなくてはならない」という点である。そのため出願された中(約41万件/年)で実際に審査請求がされる割合は約6割(約25万件/年)へと減少する。その中では大企業の審査請求が80%以上を占めていて、資金力が乏しい中小企業の審査請求件数は10~20%とかなり低いのが実態である。

特許の出願~審査、登録、特許権の存続期間分(20年間)の特許料にかかる費用の合計は1件あたり 130万円以上(弁理士への報酬は除く)にもなるため、中小企業が特許を実際に取得することには、非常に高い壁が存在しているのだ。しかしそれでも多くの企業が特許出願を行なうのは、「特許を取得して権利収入を得る」ことよりも、ライバル他社から模倣品が登場することを防ごうとする目的のほうが強いこともある。商品パッケージやWebサイト上に「特許出願中」と掲示しておくだけでも、模倣品を防ぐための効果は大きい。

そのため、知的財産の価値が重視されはじめている風潮も反映して、特許の出願件数は年々増加している。特許庁では今年から出願審査請求の手数料を2倍に値上げしているが、そこには安易な出願~審査請求を抑えようとする意図もあるようだ。

《特許出願→審査請求→登録数の推移》

年間の特許出願件数が約40万件であるのに対し、特許取得のスペシャリストである「弁理士」の登録数は全国で約5千名。その中でも得意とする専門分野(例:機械、電気分野など)は絞られることから、国内では特許に関するスペシャリストの数が圧倒的に不足している。出願した特許が登録にまで至る成功率は、弁理士の能力によって大きく異なると言われるが、大企業では社内で専門技術に特化した弁理士を育成することによって、登録成功率を80%以上に高めている例もある。中小企業が特許戦略を成功させたい場合にも、まずは優秀な弁理士と出会うことが大切になるが、現状ではその出会いが上手くいっていない。ちなみに中小企業の登録成功率は10~20%という状況にある。

【特許取得よりも難しい権利の収益化モデル】

 高い研究開発費と長い審査期間を経てようやく取得した特許も、そのままでは収益を生み出すことはできない。発明した技術を自社が単独で製品化できるのは一部の大手メーカーに限られるために、中小のベンチャー企業や大学の研究機関では特許技術を他社に提供する契約を結ぶことでライセンス収入を得る方法がわかりやすい。

特許技術の開発企業と利用企業とをマッチングさせる特許流通事業は今後の成長が期待できる分野だが、日本ではまだその仕組みが模索中の段階。大学の研究機関が開発した特許については専門の「技術移転機関(TLO:Technolog LicensingOrganization)」が設立されてきているが、それ以外でもベンチャー企業が発明した技術やビジネスモデルを他社へと貸与したり売却できる仕組みが求められている。

実際に特許の流通取引を成立させて、そこからライセンス収入を得ることは米国においてもかなり難しいと言われている。その背景には、新技術を自社の製品に導入したい企業からみると、他社の特許を有償で利用するのではなく、既にある特許を侵害しないように“似た技術”を自社で開発したほうが、高いライセンス料を払うよりも得だと考える向きがある。現実には、既存特許の大枠となるアイディアは模倣しても、細部の仕組みや構造を変えることで合法的に自社製の技術を作ることは可能だ。

また、世界の研究開発動向として、ゼロから独自の技術を開発するよりも、新たな技術を開発した新興企業を買収することで、自社の傘下に取り入れることで、新製品発売までのサイクルを短縮化しようとする動きも、大企業の中でみられる。
逆にいえば、注目すべき特許を取得した新興企業では、会社ごと売却することも近年の出口戦略としては主流になってきている。

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・米国における特許権ビジネスの実態と問題点
・知的財産立国に向けて浮上する特許技術の移転仲介ビジネス
・保護期限切れの知的資産を再利用したコンテンツビジネス
・工賃で稼げない時代の中小製造業者が目指すべき特許ビジネス

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