将棋の棋士は、スポーツ業界とは異なる商業的な収益構造を持っている。主要スポーンサーとなっているのは新聞社で、そこには棋譜著作権の獲得争いが絡んでいる(JNEWS)
プロ棋士の高額年収を支える新聞社の役割と棋譜著作権

JNEWS
JNEWS会員配信日 2003/6/19

 日本で古くから根強い人気のある伝統的なゲームとして「囲碁・将棋」がある。テレビゲーム全盛の時代になっても、囲碁や将棋の愛好者人口は安定していて国内の将棋愛好者は1000万人、囲碁愛好者は500万人と言われている。特に男性に人気の趣味としても、囲碁・将棋は常に人気ランキングの上位に位置している。

将棋の世界では、現在プロとして活躍している棋士が 200名ほどいて、その頂点を極めれば1億円を超すほどの年収を稼げる。プロ全体の平均では年収1000万円ほどだと言われている。野球やサッカーなどのスポーツ界ほどの派手さはないものの、趣味を極めることで成功への夢が持てる世界ともいえるだろう。

愛好者人口が多く、プロの世界が華やかであれば、そのすそ野には関連ビジネスの市場が広がるのが常だが、囲碁・将棋に関しては、スポーツ業界とは異なる商業的な構造を持っている。それを理解しておかないと、この分野で稼ぐことは難しい。

将棋の駒や盤はそれほど高くないため「道具の販売」だけではほどんんど商売は成り立たない。愛好者同士が対局を楽しめる将棋クラブや碁会所の経営を志す人もいるが、一名あたりの料金単価は安いために、これを本業とすることも厳しい。
囲碁や将棋は、誰もが手軽に楽しめる娯楽だけに、逆に、愛好者達からお金を落とさせる仕組みを作ることが難しいのだ。しかし囲碁・将棋の愛好者をしっかりと取り込んで、自らの収益へと結びつけている会社が身近なところにある。

【新聞業界と将棋や囲碁の関係】

 将棋や囲碁をビジネスとして昇華させることに成功しているのは新聞業界である。高年俸を稼いでいるプロ棋士の収益構造の中で、最も大きなウエイトを占めているのが、タイトル戦の勝利で稼ぎ出した“賞金”だが、この賞金を提供する主催スポンサーとなっているのが新聞社なのだ。

将棋の世界では毎年7種類のタイトル選(7大タイトル)が開催され、各タイトルの獲得を目指してプロ棋士達は熾烈な戦いを繰り広げる。この7大タイトルの賞金スポンサーとなっているのは、すべて新聞社であることは興味深い。ちなみに、過去に7大タイトルすべてを独占した棋士というのは羽生善治だけである。

【新聞社が欲しがる棋譜情報】

 新聞社がタイトル戦のスポンサーとして名乗りを上げるのは、棋譜情報の獲得に目的がある。新聞紙面、スポーツ欄の片隅には“将棋コーナー”が毎日掲載されているが、じつはこの内容を比較して購読する新聞を比較検討する読者というのがかなり多い。なにしろ将棋の愛好者人口は1千万人規模で、新聞をじっくりと読む高齢層になるほど将棋人口も増えてくることから、新聞社にとって“将棋コーナー”の充実は、他紙との読者獲得競争の上でも重要課題となっているのだ。

新聞社ではタイトル戦のスポンサーとなることで、各対局でどのように駒が動いたかを示す“棋譜”を誌面上に独占的に掲載できる権利を獲得する。そのため名人戦の詳しい動向を知りたい人ならば、必然的に毎日新聞を購読するようになる。

新聞社としては、スポンサー料を支払ったとしても、人気タイトル戦の棋譜を独占掲載できることで読者数が増えれば採算が合う。しかも最近では、インターネット上でも“棋譜”がオンラインコンテンツとしての価値を高めていることから、二次的な販売による収益も期待することもできるようになった。

この内容はJNEWS会員レポートの一部です。正式会員の登録をすることで詳細レポートにアクセスすることができます記事一覧 / JNEWSについて

この記事の完全レポート
JNEWS LETTER 2003.6.19
※アクセスには正式登録後のID、PASSWORDが必要です。
※JNEWS会員のPASSWORD確認はこちらへ

この記事に関連したバックナンバー
プロスポーツチームの台所事情と新メディアに向けた収益源
ネット直販で実現させる新スポーツリーグのビジネスモデル
著名投資家が注目するマイナーリーグの事業モデルと資産価値
米スポーツ界の年俸相場を決める「交渉代理人」の業界構造
ゲーム理論で動く才能集団の利害関係に基づく協業ビジネス
ゲーム依存のユーザー特性とゲーミフィケーションによる集客
ゲーミフィケーション化される仕事とシミュレーター開発

棋士の仕事を解説した関連書籍


(儲かる商売の裏側) / (トップページ) / (JNEWSについて)

これは正式会員向けJNEWS LETTER(2003年6月)に掲載された記事の一部です。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料による情報提供をメインの活動としています。 JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。

JNEWS LETTER 2週間無料体験購読

配信先メールアドレス

※Gmail、Yahooメール、スマホアドレスの登録も可
 
Page top icon