商品に先に納めて、売れた分だけ料金を請求する先用後利は 「富山の薬売り」の時代からあるものだが、IoTテクノロジーなどの融合により、次世代型のビジネスモデルとしても注目されている。(JNEWSについてトップページ
次世代ビジネスモデルとして考える先用後利の料金システム

JNEWS
JNEWS会員配信日 2006/4/19
記事加筆 2021/9/10

「必要な分量だけ購入して代金を払う」という量り売りの発想は、消費者に対する小売サービスばかりでなく、さらに上流のビジネスへと発展させることができるものだ。富山の薬売り商法は「先に商品を置いておき、実際に使った分量だけ代金をもらう」という方法によって全国に置き薬を普及させたが、このような取引の形態は「先用後利」と呼ばれるもので、現代のビジネスにおいても注目されている。

新興の企業が取引先を開拓する際にも、最初から料金を徴収するのでは敷居が高くてなかなか契約が成立しない。そこで、まず無料で商品やサービスを利用してもらい、実際に成果が生じた分に対してのみ料金をチャージする仕組みであれば、新規の取引も開拓しやすくなる。新たなビジネスモデルを開発する上でも、料金体系に先用後利の発想を盛り込むことは課題の一つとなっている。

しかし先用後利のビジネスモデルは決して新しいものではなく、普段はなかなか気付きにくくても、言われてみれば先用後利型の取引形態によって成り立っている事例は意外と多い。それらの具体的な仕組みを把握することでも新たなビジネスを生み出すためのヒントにすることができる。

【通販業界における先用後利の商慣習】

 古い小売業界では、メーカーや問屋から商品を先に店へ納入させておき、小売店は実際に売れた分だけの仕入代金を納入業者に支払う“販売委託方式”が商慣習として定着している。これは百貨店、ホームセンター、家電量販店、コンビニエンスストア本部など、強い販売力を持つ大規模小売業者と、その売り場で自社の商品を取扱ってもらいたいメーカーや卸業者との間の力関係によって成り立っているものだ。

このような販売委託方式はカタログ通販業界においても採用されている。大手通販会社では数百万~数千万人という規模の会員顧客を獲得しているため、中小のメーカーとしては、そのカタログ誌に自社の製品を掲載してもらうことにより大量の注文を期待することができる。ただし、通販会社側では雑誌に掲載する商品をすべて自社の在庫として抱えてしまうことはリスクが大きいために、取引先のメーカーには、まず在庫を通販会社の倉庫(物流センター)に納入しておいてもらい、実際に雑誌読者から注文が入った件数だけを買取る形の契約体系になっていることが多い。

《カタログ通販業者と商品納入業者の取引形態》

カタログ通販誌は一回の発行で3ヶ月~1年の長期にわたって読者からの注文が入ることになるため在庫管理の方法が難しく、通販会社は在庫の負担をすべて背負ってしまうわけにはいかないことから、このような販売委託方式の取引が成り立っている。商品を納入する業者は、商品を先に納入しておき、カタログが発行された後の品切れも起こすことはできないという責任を負うことになるが、大手通販会社の販売力の元では魅力的な取引と踏んでいる。

【売れた分だけ料金を徴収する企業間の先用後利】

 量り売りを小売現場の話だけに留まらせておく理由はない。流通の上流へと視点を向けてみると、在庫のロスを防いで最大値の利益を得られるよう効率的に物流をコントロールしたいと考える業者取引の現場でも、量り売りの卸市場を開拓できる可能性は高い。

バーやレストランに酒類や飲料品を供給している卸業者では、ボトル単位での納品をしているが、飲食店側が仕入れたボトルを使い切らずに無駄にしているロス率は15~35%にもなる。酒類を提供する飲食店の原価率からみると、これは売上高の5~12%に相当する損失となり、この業界の平均的な営業利益率よりも高い数値となっている。アルコールを客に提供する水商売の利益率は高いようにみえても、実際には店舗や人件費にかかる経費の割合が高いために、最終的に残る利益は黒字店でも意外と低いのだ。

そのため仕入れたボトルをできるだけ無駄なく使い切ることが、バーのような酒類主体の飲食店が利益率を高める上では欠かせない。そこに着目してユニークなビジネスを展開しているのが、カナダに本社を置く「Sculpture Hospitality」という会社だ。同社は水商売における利益管理のリーダーを標榜していて、バーやレストラン向けの出張在庫管理サービスを主な業務としている。この場合の「在庫」とは、店内にストックされている酒瓶の残量だ。

そのサービスの内容は、店内の全ボトルに残っている酒類の量を正確に測定して、POSレジに記録された酒類の売上と比較したレポートを作成する。その監査レポートを元に、店員の不正やミス、あるいは経営者のドンブリ勘定などが原因によるロスを発見、防止することで店の利益を向上させようというのが目的だ。ボトル残量(在庫)の測定は、専用に開発された電子計測器で正確に測定されるようになっている。

飲食店向けにボトルの残量を計測するサービスは、日本ではあまり見かけないが、欧米では飲食店向けのロス改善サービスとして注目されている分野のビジネスだ。しかし店内にあるすべてのボトル残量を正確に測定するのに手間がかかることから、その画期的な方法が求められている。
Sculpture Hospitality社では、レストランやバーがグラスで提供するビールや飲料の在庫量を管理できるシステムを開発して、飲食チェーン企業に提供している。

Sculpture Hospitality

このような在庫管理ビジネスに量り売りの発想を加えれば、酒類メーカーや卸業者が飲食店と取引する形態として、ボトル単位での商品納入ではなく、店内で実際に消費された分量を計測して料金を徴収する方法も考えられる。これは取引先の販売状況に応じて供給をコントロールする「ベンダー主導型在庫管理」としても提唱されているもので、ボトル単位での出荷よりも、メーカーと飲食店とが直結した取引関係を継続的に築けるようになるのが利点である。

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・次世代ビジネスにおける先用後利商法の視点
・デジタル時代の置き薬商法、超流通ビジネスの仕組みと収益構造
・ICタグとの連動による客先(納入先)在庫管理システムの仕組み
・富山の薬売りからヒントを掴む先用後利の新ビジネスと顧客管理術

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